- ✔ 筋トレは必ずしも限界まで追い込む必要はない
- ✔ 「限界の1〜2回前」でセットをやめるのが効率的
- ✔ 種目や目的に合わせて追い込み度合いを調整する
「筋トレは限界まで追い込む必要はあるのか?」
「もし必要なら、どれくらい追い込めばいいのか?」
今回はこうした筋トレの「追い込み」についての悩みを、科学的根拠と実践的な視点からわかりやすく解説します。
実際には、毎回限界まで追い込むことが必ずしもベストではありません。
むしろ、適度に余力を残した方が疲労や怪我のリスクを抑え、トレーニング全体の質を高めることができます。

この記事を読むことで、「どれくらい追い込めばいいのか」が明確になり、効率的でより安全にトレーニングをすることができます。
初心者でもすぐに実践できるように解説しているので、自分に合った追い込み度合いを見つける参考にしてみてください。
もくじ
筋トレは必ずしも限界まで追い込む必要はない
結論から言うと、筋トレは必ずしも限界まで追い込む必要はありません。
ただし、余裕の残しすぎると効果が薄れてしまうため、効率的に筋トレの効果を得るためには適度に追い込むことが重要です。
ここでは、「限界までの追い込みが必須ではない理由」と「適度に追い込みが効率的である理由」を科学的根拠とともに解説します。
限界までの追い込みは必須ではない(科学的根拠あり)
「筋トレは限界までやらないと効果がない」と思われてる方も多いかもしれません。
しかし、実際には限界まで追い込まなくても十分に筋肥大や筋力向上の効果があることが、最近の研究でわかってきています。
2021年のGrgicら、2022年のRefaloらによる「失敗するまで追い込むトレーニング」と「余力を残したトレーニング」を比較・分析した大規模な研究によると、両者の筋力と筋肥大の効果に有意な差が認められませんでした。【Grgic 2021,Refalo 2022】
上記の研究に加え、Vieiraら(2021)の同様の研究では、限界まで行った方が筋肥大効果が高くなる傾向がみられたものの、トレーニング量を揃えた研究のみを分析したところ、追い込んだ場合と余力を残した場合の筋肥大効果の差がなくなることが示されました。【Vieira 2021】
これらの結果から、筋肥大効果において最も重要な要素は「限界まで追い込むか」ではなく、「十分なトレーニング量を確保できるか」であるという従来の知見を裏付けることになりました。
つまり、鍛えたい筋肉に適切な量の刺激を与えることができれば、限界まで追い込む必要はないということです。
極端な例ですが、1セットだけ限界まで追い込むよりも、余力を残して3セット行い合計の反復回数を多くした方が筋肥大効果が高くなります。
追い込みは意味がないのか?
では、「追い込まなくてもいいのか?」というと、そうでもありません。
"限界まで"追い込む必要がないだけで、適度に追い込むことで効率的に筋肥大を促すことができます。
たとえば、10回がギリギリできる重量で3セット行う場合を考えてみましょう。
限界の少し手前の8回でセットを止めると、3セット合計24回の反復になります。
一方、余裕を大きく残して6回でやめると合計は18回となり、限界の少し手前でやめた場合よりもトレーニング量が少なくなる、つまり筋肥大効果が少なくなります。

仮に、6回でやめる場合に同じトレーニング量にするには、4セット行う必要があり、その分トレーニング時間が長くなり効率が良くありません。
このように、余裕を大きく残す場合に比べ、適度に追い込んだ方が効率よく筋肉に負荷をかけることができます。
じゃあ「より多く反復できた方が筋トレ効果を高められるなら、やっぱり限界まで追い込んだ方がいいんじゃないの?」と思われるかもしれません。
確かに、限界まで追い込むことで筋トレ効果を高められる可能性はあります。
ですが、追い込みすぎにはデメリットもあるため、実際には適度に追い込むことが現実的です。
それでは次の章では、追い込みすぎる場合のデメリットについて確認します。
追い込みすぎる場合のデメリット2つ
効率的な筋肥大を促すには適度に追い込むことが必要です。
ただし、毎セット限界まで追い込んだり、そういったトレーニングを継続すると、筋トレの効果をマイナスにしてしまうこともあります。
ここでは、追い込みすぎが筋トレ効果に与える短期的・長期的なデメリットを解説します。
トレーニング全体の質が低下する
筋トレは限界まで追い込めば追い込むほど、筋肉や神経系に疲労が蓄積するので、その後のセットで大きくパフォーマンスが落ちてしまいます。
たとえば、1セット目から限界まで追い込んでしまうと、2セット目以降の反復回数が大幅に減ったり、負荷を減らさなければならなくなります。

実際の研究でも、限界まで追い込んだ場合と少し余力を残した場合を比べると、セット内やセット間でのパフォーマンスが顕著に低下することが示されています。【Refalo 2023】
結果として、一生懸命に頑張ったにも関わらず、限界まで追い込んだ方がトレーニング全体での負荷量が減り、筋肥大効果が低下してしまいます。
限界までの追い込みは一見効果的に感じますが、実際には効率を下げる要因になりやすいのです。
回復が追いつかず、過度に疲労が溜まるとオーバーワークになる
限界まで追い込んだ場合の疲労は、少し余力を残した場合と比べて、次の日以降にも残りやすく、十分に回復できないまま次のトレーニングを迎えてしまうことがあります。
その状態で、また限界まで追い込むようなトレーニングをしてしまうと、回復が間に合わず疲労が徐々に蓄積していきます。
こうした状態が続くと、慢性的な疲労により、パフォーマンスの低下や筋肉の成長の停滞、怪我のリスクが高まります。
最終的には、「オーバーワーク」と呼ばれる状態になり、成長が停滞するだけでなく、睡眠の質の低下や集中力の欠如など全身の不調を招き、日常生活にも支障をきたす可能性があります。
こうした理由から、筋トレは毎回限界まで追い込むのではなく、疲労を過剰に蓄積しないように、適度な追い込みで回復とのバランスをとることが大切です。

仕事や家事が忙しく睡眠がしっかり取れない人は、ハードなトレーニングが続くとすぐにオーバーワーク気味になってしまうので、追い込みすぎには特に注意が必要です。
筋トレの追い込みは「限界の1〜2回前」が目安
ここまでは、限界まで追い込む必要はないこと、そして追い込みすぎるデメリットについて解説してきました。
では、実際にどれくらい追い込めばいいのでしょうか。
科学的根拠と実践的な視点をふまえると、「あと1~2回できそう」というところでセットを止めるのが目安です。
ここでいう「限界」とは、正しいフォームを維持した上でこれ以上できない状態を指します。フォームを崩して無理やり上げるのは「限界を超えている」状態です。
限界の1〜2回前で止めることには、次の3つのメリットがあります。
限界の1〜2回前でやめるメリット
- 筋肥大効果を効率よく高められる
- 正しいフォームを維持しやすく、怪我をしにくい
- トレーニングに対する心理的ハードルが下がる
それぞれ解説します。
筋肥大効果を効率よく高められる
限界の1〜2回前で止めることで、疲労をコントロールしながら十分なトレーニング量を確保でき、結果的に筋肥大効果を効率よく高めることができます。
最初のセットから限界まで追い込んでしまうと疲労が大きく、その後のセットの反復回数が大きく落ち、全体のトレーニング量が減ってしまう可能性があります。
1〜2回余力を残すことで過度に疲労を避けられるため、その後のセットも反復回数を維持しやすく、トレーニング量の低下を抑えることができます。

実際に、限界まで追い込んだグループと1〜2回余力を残したグループを比較した研究では、余力を残したグループの方が反復回数の低下が少なく、結果として限界まで追い込んだグループと同等のトレーニング量を確保でき、筋肥大効果が同程度になることが示されました。【Refalo 2024】
つまり、限界の1〜2回手前でやめることで疲労を抑えつつ、限界まで行った場合と同じトレーニング量と筋肥大効果を得ることができます。
正しいフォームを維持しやすく怪我のリスクを減らせる
限界まで、もしくは限界を超えて追い込もうとすると、疲労によって正しいフォームを維持するのは難しくなります。
フォームが崩れた状態でトレーニングを続けると、狙った筋肉に適切な刺激が入らないだけでなく、関節や腱などに余計な負担がかかり、怪我のリスクが高まります。
限界の1〜2回前で止めると、フォームが大きく崩れる前にセットが終わるので、怪我の予防につながります。
少し余力を残しても十分な筋トレ効果は得ることができるので、無理をせず安全にトレーニングを行いましょう。
トレーニングに対する心理的なハードルが下がる
毎回限界まで追い込むトレーニングは、体だけでなく精神的にも大きな負担になります。
「今日も限界まで追い込まないといけない」というプレッシャーがあると、トレーニングに行くこと自体が憂鬱になる人もいるでしょう。
さらに、追い込みすぎると次の日以降の疲労感も強くなるので、仕事や家事で疲れている日は「今日は疲れているからやめておこう」と、トレーニング習慣が途切れがちになってしまいます。
一方で、「少し余力を残してもいい」と思えるだけでも、心身に余裕が生まれ、トレーニングに対する心理的なハードルが大きく下げることができ、結果としてトレーニングの習慣化につながります。
これらの理由から、限界の少し手前でセットを終えることは科学的にも実践的にもメリットが大きいため、「限界の1〜2回前」でセットをやめることをおすすめします。
追い込み度合いの見極め方
「限界の1〜2回前」と言われても、実際にどのようにそのタイミングを判断すれば良いのでしょうか。
適切な追い込みを度合い見極めるためには、いくつかの指標を組み合わせて判断します。
ここでは、追い込み度合いを判断する3つの代表的な方法を解説します。
追い込み度合い判断方法
- 自分の感覚(REP/RIR)
- フォームの崩れ具合
- 挙上速度の変化
それぞれ解説します。
自分の感覚(REP/RIR)で決める
追い込み度合いを判断する最も一般的な方法は、自分の感覚で決めることです。
その際、筋トレでは「RPE」というスケールがよく用いられます。
RPEとは
Rate of Perceived Exertionの略で日本語では主観的運動強度と訳されます。
RPEは下図のように、10段階で運動のきつさを自分の主観で評価する方法です。

参考文献:エリック・ヘルムス著『肉体改造のピラミッド トレーニング編』(八百健吾訳)
最近では、RPEの他に「RIR」というスケールも使われることがあります。
RIRとは
Reps in Reserveの略で「あと何回できそうか」を自分の主観で評価する方法です。
たとえば、あと1回できそうならRIR1、あと2回できそうならRIR2と、何回できそうだったかを引いた数をRIRの右に書き表します。
RPEとRIRは書き方が違う(RPE8=RIR2、RPE10=RIR0)だけで内容はほぼ同じであり、どちらも「あと何回できそうか」を主観で判断するだけなので簡単です。
この判断方法の注意点として、初心者の場合、最初は自分の感覚と体の状態のズレが大きくなりやすい傾向があります。

ただ、このズレは次に紹介する「フォームの崩れ具合」や「挙上スピードの変化」といった判断基準を意識しながら、トレーニング経験を積むことで自然とより正確に判断できるようになります。
なので、最初は難しく考えずに、その時の主観で「あと1〜2回できそう」と感じたところでセットを終了し、これから紹介する指標も参考にしながら感覚を磨いていきましょう。
フォームの崩れ具合で判断する
正しいフォームをどれくらい維持できているかも重要な判断材料です。
ある程度のフォームの変化は自然ですが、明らかに大きく崩れたり、崩れそうになった時点で、すでに適切な追い込みレベルを超えている可能性が高いです。
具体例:ベンチプレスでお尻が浮く、スクワットやデッドリフトで腰が丸まる、など
基本的には、正しいフォームを維持してこれ以上はできないと感じるところをRPE10(限界)として、その1〜2回前でセットを終了しましょう。
挙上スピードの明確な低下で判断する
バーベルやダンベルを挙上するスピードの変化も、追い込み度合いを判断材料になります。
通常、セットの初めは一定のリズムで重りを上げることができますが、疲労が蓄積するとともに動作スピードが徐々に遅くなります。
前半と比べて明らかに挙上スピードが落ちてきたら限界に近づいているサインです。
この速度低下を感じたら、そこからあと何回できそうかを意識しながらセットを終える目安にしましょう。
種目別の追い込みの目安
追い込み度合いは種目の特性を考慮することで、より安全かつ効果的にトレーニングすることができます。
ここでは、種目を以下の2つに分けて、推奨される追い込み度合いの目安を解説します。
種目別追い込みの目安
- フリーウエイトで行う多関節種目は「限界の2〜3回前」
- マシンで行う or 単関節種目は場合によって限界まで
多関節種目は「限界の2〜3回前」で止める
フリーウエイト(バーベルやダンベル)で行う多関節種目とは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどの動作に複数の関節を動かされる種目です。
これらの種目は、以下の4つの理由から基本の限界の1〜2回前よりもう少し余裕を持ってセットをやめることを推奨します。
- 限界ギリギリまで行うとフォームが崩れ、怪我のリスクが高くなる
- 使用する筋肉が多く、負担が大きい
- 限界近くまで追い込むと、回数の低下が大きい
- 筋力を向上させやすい可能性がある
フリーウエイトの多関節種目は、トレーニング歴が長くなるほど高重量を扱うため、体への負担が大きく怪我のリスクが高くなるため、限界近くまで追い込むのは注意が必要です。
また、先ほど紹介した複数の研究では、限界まで追い込むトレーニングは、非限界のトレーニングと比べて筋力向上で優位にならない、あるいは非限界のほうがわずかに有利という傾向が報告されています【Grgic 2021/Refalo 2022, 2024】
これは限界まで追い込まない方が反復回数の低下が少なく、結果的に筋肉や神経系に多くの刺激を入れられたことが理由と考えられます。
そのため、筋肥大だけでなく筋力を伸ばしたい(例:ベンチプレスを100kg挙げれるようになりたい等)という人は、あえて余力を残した方が効率的に筋力向上も狙うことができます。
こうした理由から、フリーウエイトで行う多関節種目は、「限界の2〜3回前」(RPE7-8程度、RIR2-3)と少し余力を多めに残し、安全性を保ちながらトレーニングを行うことをおすすめします。
単関節種目・マシンで行う種目は「限界から1回前」まで行う
サイドレイズやレッグエクステンションといった単関節種目やマシンで行う種目は、次の3つの理由から限界の1〜2回手前、最後のセットのみ限界まで追い込んでも問題ありません。
- 動作が単純で安定しているため、怪我のリスクが低い
- 使用する筋肉が限定的で負担が少ない
- 限界近くまで追い込んでも、回数の低下が少ない
ただし、最初のセットで限界まで行うとトレーニング量が低下しすぎてしまう可能性があるため、限界まで行うセットは最終セットのみとしましょう。
たとえば、サイドレイズを3セット行う場合、1、2セット目は限界の1〜2回手前でやめ、3セット目は限界まで行うと効果的です。
まとめ|筋トレは適度な追い込みが効率的
今回は、筋トレにおける適切な「追い込み」について、科学的根拠も踏まえ詳しく解説しました。
筋トレは限界まで追い込まなくても十分な筋肥大・筋力向上の効果が得られます。
むしろ、適度に余力を残すことで疲労をコントロールでき、トレーニング全体の質を高めることができます。
大切なのは「限界まで追い込む」ことではなく、「どれだけのトレーニング量を確保できるか」です。
まずは、「限界の1〜2回前」を目安にセットをやめ、安全かつ効率的にトレーニングを継続しましょう。
【参考文献】
・Grgic, J. (2021). Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sports Sciences, 39(19), 2213–2225.
https://doi.org/10.1080/02640414.2021.1958366
・Refalo, M. C., Fisher, J. P., & Giessing, J. (2022). Resistance training to failure versus non-failure: A systematic review and meta-analysis. Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 7(2), 42.
https://doi.org/10.3390/jfmk7020042
・Vieira, A. F., Ugrinowitsch, C., de Barros, B. M., et al. (2021). Resistance training with repetition to failure or not on muscle strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. Sports Medicine, 51(12), 2409–2422.
https://doi.org/10.1007/s40279-021-01521-2
・Refalo, M. C., Fisher, J. P., & Giessing, J. (2023). Resistance training to failure and not to failure produce similar muscle strength and hypertrophy: An updated meta-analysis. European Journal of Applied Physiology, 123(3), 793–805.
https://doi.org/10.1007/s00421-022-05041-8
・Refalo, M. C., Fisher, J. P., & Giessing, J. (2024). Does training to failure promote greater hypertrophy and strength? A comprehensive review and meta-analysis. Frontiers in Physiology, 15, 1412724.
https://doi.org/10.3389/fphys.2024.1412724